前回の続きです。
娘さんが結婚した夫(娘婿)が再婚者であり、前妻との間に子供(連れ子)がいる場合の相続は、運が悪いと次のようになってお父様からすればまったく知らない人に自分の財産が渡ってしまう可能性があります。
お父様の財産 → 娘さんが相続 → 娘婿さんが相続 → 娘婿さんの子供(連れ子)が相続
このように、相続によって財産が他人の手に渡るのは許せない、という場合に「受益者連続型」の家族信託契約を利用すれば次のように自分の親族の中だけで財産を移転させることが可能になります。
お父様の財産 → 娘さんが貰う → 甥御さんが貰う → 姪御さんが貰う
つまり、次の世代、もしくは次の次の世代まで財産の行き先を指定できるというのが「受益者連続型」の家族信託になります。画期的な「受益者連続型」の家族信託なのですが、私の個人的な意見なのですが、実際に「受益者連続型」の家族信託契約を構築できる場合は少ないような気がします。
「受益者連続型」の家族信託は親族間でお金を移動させることが出来ると説明しましたが、実際には、本当にお金を移動させるわけではありません。簡単に言えば、お金を使うことのできる権利を移動させることができるというものです。お金の実物を貰うのと、お金を使う権利を貰うのと何が違うんだ?と思われるかもしれませんが、お金の実物を貰うということは、その通りでお金(現金など)を貰うということです。これに対してお金を使う権利を貰うということは、お金そのものは別の場所にあり、自分が使いたいときには自由に引き出して使うことができる、というようなものです。じゃあ、普段はお金はどこにあるんだ?ということになります。実はお金自体を管理する人が別に居いるのです。そのお金を管理する人のことを「受託者」と言います。受託者はお金の番人です。たとえば先ほどの例で、お金の番人を息子さんと決めた場合は、このようになります。
お父様の財産 → 息子さんがお金の番人になり、お金を使うのは娘さん → 息子さんがお金の番人で、お金を使うのは甥御さん → 息子さんがお金の番人で、お金を使うのが姪御さん
このようになります。「受益者連続型家族信託」は画期的なのですが、骨格となるのは、このお金の番人の存在です。お金の番人が、お金をちゃんと管理してくれるので、お父様が亡くなった後も、お父様の財産を親族内で回していくことが可能になるのです。
でも私が疑問に思っていることは、この息子さんのようにお金の番人になってくれる人が本当にいるのだろうか? という疑問です。話を最初に戻します。そもそも、このお父様にとっての問題点は、自分の財産が知らない人の手に渡ってしまうことです。もしその金額が少額の場合は、まあ少しなら仕方がないな、ということになると思われますが、自分の財産の大半が知らない人に渡ってしまう場合は我慢できない、ということになるのです。ではなぜ、自分の財産の大半が知らない人に渡るのかと言えば、それは相続人の数が少ない為です。仮にもし、お父さんにお子さんが5人居た場合を考えてみます。5人のうちの1人の子供(娘さん)が、連れ子のいる再婚者と結婚した場合、先ほどからの例にありますように最悪の場合はその娘さんが相続したお金の全額を、連れ子が相続してしまう可能性があります。でも、その金額はもともとお父様が持っていた財産の5分の1に過ぎません。兄弟5人が均等に分けた場合、娘さんが相続する分は5分の1のみです。この場合、お父様からすれば、気に入らないことには違いないが、5分の1だけなので我慢するしかないな、ということになるかと思います。ところがもし、娘さんが一人っ子だとしたらどうでしょうか? 娘さんはお父さんの財産の全額を相続することになりますので、最悪の場合、そっくりそのまま全額を連れ子が相続してしまいます。それはお父様にとっては絶対に許せないはずです。ということはつまり、お父様にとって許せるか許せないかの違いというのは、自分の子供たちが沢山いるかどうかの違いです。もし子供が多い場合は我慢できるけれど、子供が少ない場合は我慢できない、という事態になります。そしてその我慢できない事態を回避する方法の一つが「受益者連続型家族信託」なのです。でも、ここで大きな問題に遭遇します。子供が少ない場合は、「受益者連続型家族信託」の構築で必要となってくる「お金の番人」を誰に指名するべきか、という問題です。もし、お父様に子供が2人居るのでしたら、たとえば息子さんを番人にするということもできます。でも、息子さんが次の世代までずっと番人の仕事をやり続けることは現実的にも年齢的にも不可能だと思われます。もちろん番人は途中で別の人に交代することはできるのですが、でも、人が居ないのに一体誰に交代するんでしょうか? 一方、娘さんが一人っ子の場合はもう絶望的です。お金の番人になってくれる妥当な人はいません。このように、「受益者連続型家族信託」を利用したい場面は、相続人が少ないときが多いのですが、相続人が少ないということは、そもそもお金の番人に指名できる人が居ない、つまり「受益者連続型家族信託」を利用できない、という矛盾した状態に陥ります。これが「受益者連続型家族信託」の最大の欠点だと思っています。「受益者連続型家族信託」が利用できるかどうかは、身近にお金の番人になってくえる信頼できる身内がいるかどうかにかかってくるのです。もし、お金の番人になってくれる人が居ない場合は、「受益者連続型家族信託」を諦めるしかありません。
私の結論としましては、
「受益者連続型家族信託」は、使いたいと思う場面では使えない場合が多い。しかし相続人の数や年齢、相続人同士の信頼度、財産の金額、これらによっては使える場面もあるかもしれない。もしこれを使える人が居るならば、その人にとっては画期的な方法となりうる。
と言ったところでしょうか。
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