コラム

故人に借金や税金の滞納がある場合

お父さんが借金をしていました。税金の滞納もしていました。そのお父さんが亡くなった場合、借金や税金はどうなってしまうのでしょうか?

先日、お父さんが亡くなってまだ間も無いのに、相続人の息子さんから、お父さん名義の土地を一刻でも早く自分(息子)の名義に変更したい、というご要望を承りました。私は司法書士ではありませんので、詳しいことは司法書士の先生に話を聞かなければいけないとお話をしたのですが、まずは遺産分割協議書か遺言書が必要になりますよ、という話をお伝えさせていただきました。息子さんは何やら非常に困ったご様子でした。確かに相続発生後に速やかに名義変更をすることはとても良いことだとは思います。ただ、この方の場合は何やら切羽詰まった感じがありましたので、何を悩んでおられるのかを伺うことにしました。そうしたら、

「お父さんには借金があるのです。取り立てられる前に、財産の名義を早く変更しておきたくて・・」

というお話を仰っておられました。この方の話によりますと、土地の名義がお父さんのままでは債権者に差し押さえられてしまうかもしれない。名義を変えておけば差し押さえからは免れられる。だから債権者に気づかれる前に、少しでも早く名義を変更しておきたい、というものでした。

本当にそうでしょうか? 名義を息子さんに変更したら、借金から逃れられるのでしょうか?
結論を言えば、残念ながら借金から逃れることはできません。
何故ならば、お父さんが亡くなった瞬間に、奥さんやお子さんはお父さんの借金を相続してしまうのです。
この話のポイントは「名義」です。
息子さんの理屈としては、お父さんにお金を貸した債権者は、お父さん名義の財産のみ差し押さえが可能だから、財産の名義を変更してしまえば差し押さえする財産が無くなり、借金を払わなくて良くなるはずだ、という論法です。
一見すると正しいように思えてしまうかもしれませんが、残念ながらこれは間違いです。
相続においては「名義」はあまり意味を持ちません。
どういうことかと言いますと、お父さんが亡くなった瞬間に、お父さん名義の土地は、名義がお父さんのままであったとしても、実質的な持ち主というのは相続人(息子さん)になります。借金も同様です。お父さんの借金はお父さんが亡くなった瞬間に、相続人(息子さん)の借金になります。

民法896条では「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する・・以下省略」

とあります。つまり、お父さん名義の土地は、名義変更をしなかったとしても息子さんのものですし、お父さんの借金はお父さん名義で契約したとしても、息子さんの借金になります。相続における名義というものを簡単に言えば、「名前を書く」という程度のものに過ぎません。自分のカバンに自分の名前を書く、という行為と似ています。自分のカバンに名前を書かなかったとしても、それは自分のカバンであることには変わりませんし、自分の名前を書かなかったからと言って、それが他人のカバンになるわけでもありません。相続発生後に名義を変更したとしてもしなかったとしても、土地は息子さんのものです。借金も息子さんのものです。つまり息子さんが自分の財産から自分の借金を払う、という構図になるのです。息子さんが借金から逃れる方法は唯一、お父さんのすべての財産を放棄する相続放棄しかありません。土地だけを自分のものにして、借金はお父さんのまま、ということは不可能なのです。

税金でも同じです。お父さんに税金の滞納がある場合は、相続人である息子さんが引き継がなくてはいけなくなります。その時点の名義がどうであってもはあまり関係はありません。お父さん名義の財産(土地や自動車)などをすべて息子さん名義に変更したとしましても、お父さんが亡くなった瞬間にお父さんの税金の支払い義務は息子さんに変わるわけですから、もし税金を支払わなかった場合は、息子さん名義の財産が差し押さえになるだけなのです。

以上、相続において「名義」はあまり関係ありませんよ、というお話でした。

(※内容は事実に基づいておりますが、個人を特定できないように若干脚色してあります)

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