コラム

昭和の相続と名義変更

相続が発生した場合、故人の銀行口座や株式口座や土地などの名義を、お子様や奥様の名前に変更する必要があります。この作業を一般的に「名義変更」と言います。銀行口座や株式口座の名義変更はそれほど難しくはありません。私もやったことがあるのですが、銀行や証券会社とって相続人の方は新しいお客様に該当します。ですから相続をきっかけにお客様に逃げられない為に(繋ぎとめておく為に)、手続きの方法を親身になって教えてくれます。ですから、知識や経験が無くてもなんとかできてしまうものなのです。一方、土地の名義変更の場合は少々事情が異なります。土地の名義変更をするためには法務局に行かなければいけません。でも、法務局は公的な機関ですのでお店ではありませんし、私たちはお客さんでもありません。確かに法務局でも初心者の方に教えてくれることはありますが、ただ、手続きをする為の前提となる知識は求められます。つまり土地や権利に関する一定の知識が無いと、法務局の方の言ってる意味が理解できない場合もあるのです。また、土地というのはたくさんの人の権利が設定されている場合もありますので、単純に自分の権利を設定するだけでは済まない場合もあります。銀行口座や株式口座の変更は自分でも十分可能ですが、土地の名義変更に限っては、名義変更の専門家(司法書士)に依頼したほうが良いでしょう。
ところで、昭和の時代の名義変更はどうだったのでしょうか? 昭和の時代はかなりアバウト(悪い言い方すればいいかげん)な時代でした。名義変更も、現代では考えれないような事件が起きたりしていました。
私がまだ子供の頃(昭和)、私の祖母が亡くなりました。祖母はいくつかの株式を持っていたらしく、現物の株券を持っていました。今は株券というのは不発行が原則ですが、昭和の時代は実物の株券が普通に家にありました。祖母も株券を実際に手元に置いて管理していたようです。祖母が亡くなってしばらくした後の夜に、我が家に弁護士が訪ねてきました。父と弁護士がもめていたことを当時の記憶として覚えています。私はそっと聞き耳を立てて話を聞いていましたが、話の内容としては次のようなものでした。
私の祖母が亡くなった後に親戚の方が、祖母が持っていた株券の名義を勝手に自分の名義に書き換えていたようなのです。それを父が発見したらしく、株券の名義を戻すように親戚に要求。その仲裁として弁護士が我が家にやって来て、株券の名義を父に変えたのでこれで示談にして欲しいと父に頼んでいたようでした。父は弁護士に対してあれこれ不満を言っていましたが、実害も無かった(食い止められた)ことですし、結局は父も納得したようでした。当時の私は、そんなこともあるものなのかなぁ、と思ってこっそり聞いておりました。
今から考えれば、これはとても不思議な事件であり、現代では到底ありえない事件です。現代では相続した株式の名義変更には遺産分割協議書や印鑑証明書、または遺言書などが必要となります。本当にその人の名義に変更しても良いものかどうかを公的な書類でチェックされるのです。ところが昭和の時代は、そんな書類は必要無く、もっと簡単な方法で名義変更できてしまったのだと考えられます。そもそも、私の祖母の株券の名義を変更したというその親戚は相続人ですらありません。いわゆる無権利者ですね。ただし、会社法には次のような条文があります。

会社法131条1項
株券の占有者は、当該株券に係る株式についての権利を適法に有するものと推定されます。

これによると、株券を持っている人が所有者であると推定されるということになります。「推定される」といのは法律用語っぽいのですが、誰かが反証しない限りはそれが正しいものとして扱われるという意味になります。昔、銀河鉄道999号というアニメがありました。そのアニメの中で、主人公の星野鉄郎が何度もパス(銀河鉄道の列車の乗車券)を盗まれていました。銀河鉄道株式会社の規則ではパスを持っている人が列車のお客様という扱いになっていましたので、星野鉄郎からパスを盗んだ犯人は、何食わぬ顔で銀河鉄道999号に乗車することができていました。当時はまだコンピュータが無い時代ですので、パスが誰のものかを厳格に管理することが難しかったのかもしれません。おそらく株券についても同じような理屈だと思われます。親戚の方が祖母の株券を所有していたので勝手に名義を変えてしまった。ところがそのことに気づいた父が反証をして、名義を元に(父に)戻させた。ということだったのではないかと思われます。今では考えられない時代ですが、パスや株券を持っている人が所有者になれるかもしれないなんて、ある意味、当時は夢がありましたね。現代では名義変更は遺言書や遺産分割協議書が必要になります。ただ、昭和の時代に生きていた方々は、銀行口座や株式口座などの名義を簡単に変更できると考えている人も、今でも一定するいらっしゃるようです。さすがに関係無い人に名義を変更できるとは思っておられないようですが、一番多いのは、お爺さん(お婆さん)の名義から、孫の名義に変更できると考えておられる方がいらっしゃいます。もちろん遺言書で孫が指定されている場合は名義変更は可能です。または代襲相続の場合も名義変更は可能です。でも、勘違いで一番多いのは、孫にとってのお父さん(またはお母さん)が存命しておられるのに、遺言書も無い状態で、祖父(または祖母)から孫への名義変更が可能だと考えておられる方がいらっしゃいます。極端な場合、遺産分割協議(遺産をどうやって分けるかを相続人間で話し合う場)に、孫が参加しようとするといった珍事もありえます。通常、孫は相続人ではありません。昭和の時代ならいざ知らず、現代において遺産分割協議で孫への名義変更は不可能なのです。どうしても孫に相続させたい場合は、被相続人の方がお元気なうちに遺言書を書いていただくことになります。
このように御自身がお亡くなりになった後はどんなトラブルが待ち構えているかはわかりません。残された方々の安心を買うのが遺言書(の作成)になります。弊所では、公正証書遺言書の作成サポートを承っております。遺言書は何度も書き替えることができるものですので、なるべくお若いうちに遺言書を作成されてかれることをお勧めしております。

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